KIDA LABORATORY

Department of Applied Chemistry, Graduate School of Engineering, Osaka University

Research

 

1.有機媒体中で高い包接能を示す環状オリゴ糖の開発と利用

シクロデキストリン(CD)は、デンプンに酵素を作用させて得られる、植物由来の環状オリゴ糖です。グルコースがα-1,4 結合で環状に連なった構造をとっています。特に、6、7、8個のグルコースがつながったものが代表的で、それぞれα-、β-、γ-CDと呼ばれています。CDはドーナツのような形をしていて、内径0.5~0.9 nmの空孔(穴)をもち、この空孔の形と大きさに適合する分子を取り込む性質(包接能)があります(図1B)。また、取り込んだ物質を特定の刺激により容易に放出することもできます(放出能)。このCDの物質包接能と放出能は、食品、医薬品、化粧品など様々な分野で利用されています。

 

図1.(A)シクロデキストリン(CD)の化学構造と模式図. (B)CDによるゲスト分子の包接と放出の模式図

 

しかし、CD空孔内へのゲスト分子の包接はこれまでほとんどの場合が水中で行われており、有機溶媒中、特に油中や非極性溶媒中での効果的なゲスト分子包接はきわめて困難であると考えられ、実現されていませんでした。我々は、適切に化学修飾したCDが非極性溶媒中のゲスト分子を効果的に包接できることを世界で初めて見出し、それを吸着剤に用いることで、絶縁油中に微量混入しているポリ塩化ビフェニル(PCB)を選択的に吸着除去できることを明らかにしました(図2)。さらに、この吸着剤をカラム内に充填し、その中をPCB汚染オイルが通過するシステムを組むことで、汚染オイル中のPCBを効率的に分離濃縮することにも成功しました。毒性のPCBが混入した絶縁油は現在我が国で大量に(50万トン以上)保管されており、適切な処理方法の開発が急務となっています。我々が開発した技術を用いることで、大量の汚染オイルから短時間で環境に負荷を与えずにPCBを分離濃縮できると考えられます。本技術は、我が国で大量に保管されているPCB汚染オイルの全廃に大いに貢献できると期待され、現在、実用化に向けて研究に取り組んでいます。

 

 

図2.オイル中のPCBとCD誘導体との包接錯体形成

 

参考文献
  • 1) T. Kida et al., Org. Lett. 2009, 11, 5282-5285. 2) T. Kida et al., Org. Lett., 2011, 13, 4570-4573. 3) T. Kida et al., J. Am. Chem. Soc., 2013, 135, 3371−3374. 4) S. Kawano et al., Environ. Sci. Technol., 2014, 48, 8094-8100. 5) C. Kogame-Asahara et al., ChemPlusChem, 2018, 83, 868-873. 6) J. M. Kalaw et al., ChemPlusChem, 2020, 85, 1928-1933.

2.複数のリンカーをもつシクロデキストリン二量体の開発と利用

シクロデキストリン(CD)の機能をさらに引き出し、包接できるゲスト分子の種類を広げるために、CD二量体の合成と包接能についての研究が活発に行われてきました。特に、CD二分子を1つの共有結合性リンカーで連結したモノリンカー型のCD二量体が数多く開発されており、CD単量体の空孔よりも大きなサイズのゲスト分子を安定に包接することが可能となっています。その一方で、CD二分子を複数の共有結合性リンカーで連結させた、いわゆるマルチリンカー型のCD二量体については精度の高い分子認識が期待できるにもかかわらず、合成の困難さからほとんど報告されていませんでした。我々は、6位水酸基をtert-ブチルジメチルシリル基で修飾したβ-CD (TBDMS-β-CD)二分子を7つのm-キシリレンリンカーで連結した、マルチリンカー型β-CD二量体を簡便に合成することに成功しました(図3)。また、このβ-CD二量体からTBDMS基を脱保護する時に、用いる試薬を変えることで、すべてのTBDMS基が脱離したβ-CD二量体と、二つのCD環のうちの一方のCD環からのみTBDMS基が脱離した‘ヤヌス型TBDMS-β-CD二量体’を作り分けることに成功しました。これらのβ-CD二量体はトランス型や飽和の長鎖脂肪酸エステルよりもシス型の長鎖脂肪酸エステルに対して選択的な包接能を示すことがわかりました。特に、ヤヌス型TBDMS-β-CD二量体はドコサヘキサエン酸(DHA)メチルに対して105オーダーの非常に高い会合定数を示しました。標的とするゲスト分子の構造に合わせて、CDの種類、リンカーの構造や数、末端置換基を適切に選択してCD二量体を設計・合成することで、従来のホスト分子では到達できない超精密な分子認識につながると考えられます。

図3.複数のリンカーをもつβ-CD二量体の合成

 

参考文献
  • 1) S. Ito et al., Tetrahedron Lett. 2016, 57, 5243-5245. 2) C. Kogame-Asahara et al., Chem. Commun. 2020, 56, 1353-1356. 3) C. Kogame-Asahara et al., ACS Omega, 2021, 6, 3227-3231.

3.シクロデキストリン超分子構造体の創製と利用

シクロデキストリン(CD)は結晶中で、かご型、チャンネル型、層状型の3種の集合様式をとることが知られています。これらのうち、CD分子が互いの水酸基間の水素結合を介して一直線状に並び円筒の構造を形成しているチャンネル型集合体は、分子コンテナや薬物キャリヤなどとして利用できることから注目を集めています。我々は、CDの水溶液あるいは1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)溶液を炭素数3~5のアルコール(貧溶媒)中に滴下することで、CDのチャンネル型集合体からなる様々な形態のナノ及びマイクロ構造体を作製することに成功しました(図4)。例えば、γ-CD水溶液を2-プロパノール中に滴下することで、γ-CDのチャンネル型集合体からなる1辺数mmのマイクロキューブが沈殿として得られました。このマイクロキューブは室温で油や有機溶媒をゲル化できるとともに、そのチャンネル型ナノ空孔を利用することで、CD分子単独では困難とされていた、油中のゲスト分子の包接が実現できました。γ-CDキューブのサイズは作製条件により制御でき、γ-CDの空孔内にあらかじめ無機イオンを包接させておくと、生成する構造体の形態がロッド状に変化することがわかりました。一方、α-CDのHFIP溶液を室温で1-プロパノール中あるいは2-プロパノール中に滴下することにより、α-CDのチャンネル型集合体からなるワイヤ状構造体あるいは六角形プレート状構造体がそれぞれ形成されました。α-CDのHFIP溶液と2-ペンタノールとの混合により得られた六角形ナノロッドを高湿度下で静置すると、左巻きのらせん状マイクロロッドに形態が変化するという興味深い現象も発見しました。チャンネル型に配列している上下のCD分子間への水分子の挿入がらせん構造誘起の鍵になっていると考えています。このようにCD間相互作用あるいはホスト―ゲスト相互作用を巧みに利用することで様々な形態の超分子構造体を作製することに成功しました。

 

図4.様々な形態をもつCD超分子構造体の作製と利用

 

参考文献
  • 1) T. Kida et al., Anal. Chem. 2008, 80, 317-320. 2) T. Kida et al., Chem. Commun. 2009, 3889-3891. 3) Y. Marui et al., Chem. Mater., 2010, 22, 282-284. 4) Y. Marui et al., Langmuir 2010, 26, 11441-11445. 5) T. Kida et al., Chem. Lett. 2010, 39, 1206-1208. 6) T. Kida et al., Chem. Commun. 2014, 50, 14245-14248. 7) H. Shigemitsu et al., Polym. J. 2018, 50, 541 (Review). 8) T. Kida et al., Chem. Commun. 2020, 56, 7581-7584. 9) J. M. Kalaw et al., Langmuir 2022, 38, 5149-5155. 10) J. M. Kalaw et al., Langmuir 2022, 38, 8407-8415. 11) T. Kida et al., RSC Adv. 2023, 13, 34366-34370.

4.環骨格変換シクロデキストリンの開発と利用

これまで様々な分野で利用されてきたシクロデキストリン(CD)でも、ゲスト分子の形・大きさに合わせた柔軟な分子の設計が困難と考えられてきたことから、適用できるゲスト分子の種類は比較的限られていました。我々は、この点を克服しCD用途の飛躍的拡大を図るために、CDの環骨格にスペーサーを挿入するという斬新な分子設計法を考案し、それに基づいて空孔の形・大きさを自在に制御できるCD誘導体を簡便に合成することに成功しました(図5)。この‘スペーサー挿入CD’は従来のCD誘導体では発現できないユニークかつ優れた包接挙動を示すことがわかりました。さらに、‘環結合変換CD’の簡便合成にも成功し、これまで包接困難とされていたポリアクリル酸などのゲスト分子の包接が実現できることを明らかにしました。

 

図5.ゲスト分子の構造に合わせた空孔をもつ環骨格変換CDの合成

参考文献
  • 1) T. Kida et al., Chem. Commun. 2002, 1596-1597. 2) T. Kida et al., Chem. Commun. 2003, 3020-3021. 3) A. Kikuzawa et al., J. Org. Chem. 2005, 70, 1253-1261. 4) T. Kida et al., Tetrahedron 2005, 61, 5763-5768. 5) A. Kikuzawa et al., Org. Lett. 2007, 9, 3909-3912. 6) A. Kikuzawa et al., Macromolecules 2008, 41, 3393-3395.

5.電荷移動相互作用を用いるキラル光反応

光励起すると分子は電子的励起状態になります。電子的励起状態においては通常の熱反応では合成が難しい、例えば高ひずみ化合物等が簡単に生成します。電子受容体と電子供与体は基底状態で電荷移動(CT)相互作用をおこし、錯体形成に伴い、長波長(主に可視光)領域に新しい吸収帯を生成します。この波長領域に光を照射すると励起CT錯体を経由して光反応(光環化反応など)が引き起こされます。我々はこのようにして得られる励起錯体の特徴を活かし、通常の光反応(エキシプレックス経由の反応)とは異なる選択性でキラル化合物を得るという新しい方法論に関する研究を進めています。

 

図6.電荷移動錯体の光励起を利用したキラル光反応(上:概念図、下:具体的な反応系の一例)

参考文献
  • 1) T. Mori. 有機合成化学協会誌, 2016年, 印刷中. 2) T. Mori, 光科学の世界(光エネルギーを用いた化学変換:有機光反応)朝倉書店, 2014. 3) T. Mori, Y. Inoue, 化学, 2012, 67, 72. 4) T. Mori, Y. Inoue, Chem. Soc. Rev. 2013, 42, 8142.

 

6.分子認識特性を有する高輝度円偏光発光分子の開発と応用

本研究では、シクロデキストリンに多数の発光団を修飾する独自の戦略によって、回転しながら進行する特殊な光である円偏光発光(Circularly Polarized Luminescence: CPL)を発する分子の創出に成功しました(図7)。多様な発光団を修飾することで、シクロデキストリンが様々な色素を高輝度円偏光発光分子に変えることができることを明らかにしました。さらに、シクロデキストリンの『分子認識能』と『キラリティ』を利用した新たな『CPLバイオセンシングおよびイメージング』の実現し、バイオロジー領域への貢献を目指した研究を行っています。

 

図7.シクロデキストリンを基盤とした高輝度円偏光発光分子の創製

参考文献
  • 1) H. Shigemitsu et al., Angew. Chem. Int. Ed. 2022, 61, e202114700. 2) H. Shigemitsu et al., Asian J. Org. Chem., 2020, 9, 2112-2115.

 

7.有機色素分子の自己集合による超分子光触媒の創製と利用

本研究では、有機分子が自己集合した『超分子集合体』による光触媒の開拓に取り組んでいます(図8)。我々は古くから知られている有機色素分子であるローダミンが水中で自己集合することで光触媒活性を獲得することを見出しました。これまでにローダミンは優れた発光特性が注目され、その特性が消失してしまう集合状態は無用の長物と考えられてきました。しかしながら、その集合状態は発光特性を失うと同時に触媒活性を獲得していることが明らかになりました。この原理は、様々な有機色素分子に適応可能であることが分かり、分子集合体による光触媒を『超分子光触媒』と称し、人工光合成や光医療への応用を目指して研究を進めています。

 

図8.有機色素分子の自己集合による超分子光触媒の創製

参考文献

1) A. Bunno et al., Chem. Commun., 2024, 60, 889–892. 2) H. Shigemitsu et al., JACS Au, 2022, 2, 1472–1478. 3) H. Shigemitsu et al., ACS Appl. Nano Mater., 2022, 5, 14954–14960. 4) H. Shigemitsu et al., Chem. Commun., 2021, 57, 11217–11220. 5) H. Shigemitsu et al., Chem. Sci., 2020, 11, 11843–11848.