フォトクロミックアモルファス分子材料の創製
室温以上で安定なアモルファスガラスを容易に形成する低分子系フォトクロミック材料、すなわち「フォトクロミックアモルファス分子材料」の概念を提出し、その概念に基づいて、アゾベンゼン系ならびにジチエニルエテン系フォトクロミックアモルファス分子材料を設計・合成しました。さらに、それらのアモルファス薄膜におけるフォトクロミック特性を明らかにしました。
1.アゾベンゼン系フォトクロミックアモルファス分子材料
フォトクロミックアモルファス分子材料の創製を目指して、一連の新規アゾベンゼン誘導体を設計・合成ましした。これらはいずれも、比較的高いガラス転移温度 (Tg) を有するアモルファスガラスを容易に形成するとともに、アモルファス薄膜中でtrans-cis異性化反応に基づくフォトクロミズムを示すことを明らかにしました。
アモルファス薄膜におけるtrans-cis 光異性化反応の量子収率は溶液中に比べて小さいこと、および、アゾベンゼン骨格の両側に大きな置換基を有する分子群の薄膜中のtrans-cis光反応量子収率がアゾベンゼンの片側のみに置換基を有する分子群のそれと比べて小さいことを明らかにし、アモルファス薄膜におけるtrans-cis光異性化反応が自由体積の大きさと異性化に必要な体積とに支配されていることを示しました。
アモルファス薄膜中で光生成するcis-体からtrans-体への熱異性化反応を検討し、これらが自由体積の大きさに基づく特異な挙動(反応加速効果および反応抑制効果)を示すことを明らかにしました。分子サイズ(異性化に必要な体積)が小さい分子群の場合には、光異性化させた後のアモルファス薄膜におけるcis-trans熱異性化反応の反応速度が、溶液中に比べて速くなる反応加速効果を示します。これは、光異性化の際に、溶液中と同様の緩和したcis-体が生成するだけでなく、周囲の分子の影響でひずんだcis-体が形成されることに基づくと考えられます。一方、分子サイズの大きな分子群のアモルファス薄膜におけるcis-trans熱異性化反応は溶液系に比べて遅くなる反応抑制効果を示し、分子サイズを大きくすることによってcis-体を安定化させることができることを示しました。
上述の反応加速効果についてさらに詳細に検討し、光異性化によりcis-体を生成させるために照射する光の照射時間が短くなるほど、反応加速効果がより顕著になることを見出しました。これは、光照射時間が短いほどひずんだcis-体の割合がより大きいことに基づくと考えられ、BMABやBFlABが光異性化をくり返すことによって周囲の分子を押しのけて自由体積が大きくなり、ひずみが解消されていくことを示唆しています。さらに、このことを用いて、蒸着膜の自由体積がスピンコート膜に比べて小さいことを示唆する結果を得ています。
(参考論文)
J. Mater. Chem., 8, 2579 (1998); Opt. Mater.,
21, 249 (2003); Nonlinear Optics, Quantum Optics, 34, 135 (2005); Chem.
Lett., 35, 1160 (2006); J. Mater. Chem., 17, 4953
(2007).
2.ジチエニルエテン系フォトクロミックアモルファス分子材料
新規なフォトクロミックアモルファス分子材料の創出を目指して、一連のジチエニルエテン誘導体を設計・合成しました。これらはいずれも、その融液を室温で放冷するだけでアモルファスガラスを容易に形成するとともに、アモルファス薄膜中で光閉環−光開環反応に基づくフォトクロミズムを示しました。また、フォトクロミック特性を詳細に検討し、創出した分子のほとんど全てが光閉環可能なコンフォメーションをとっていることを明らかにし、これらが光照射によって可逆的に大きな物性変化を示す材料として有望であることを示しました。さらに、直線偏光を照射することにより、これらのアモルファス薄膜に二色性を誘起できることを示すとともに、そのことを利用して、同一箇所への二重画像記録が可能であることを示しました。
(参考論文)
J. Mater. Chem., 10, 2436 (2000); J. Mater.
Chem., 12, 2612 (2002); Opt. Mater., 21, 249 (2003).