酵素触媒重合
自然界ではあらゆる生物が自身の生存のために酵素を産生しており、生体内で重要な生体高分子である核酸(DNA、RNA)、タンバク質、多糖はすべて酵素の触媒作用によりつくられています。有機合成分野では生体触媒を用いる機能物質合成が活発に研究されており、その中で単離酵素が様々な選択的反応の触媒として用いられてきました。有機合成反応における酵素触媒作用は、化学触媒と比較して高い触媒活性、穏和な反応条件、高い立体、位置及び官能基選択性、副反応の抑制といった多くの利点を有しており、このような特徴を活かした機能材料の酵素合成に対する関心が高まっています。
我々は酵素を分子触媒の一つとして捉え、酵素を積極的に重合触媒として用いる高分子合成に関する研究(「酵素触媒重合」)が系統的に進めてきました。尚、ここで酵素触媒重合は「酵素触媒を用いる非生合成経路によるin vitro重合反応」をいいます。近年、高機能・高性能の高分子材料開発における精密構造制御の必要性の高まりから高分子合成の新手法として酵素触媒重合が注目されており、我々は酵素触媒重合により、従来法では合成困難な数々の高機能・高性能高分子材料を創製してきました。また、酵素触媒重合は穏和な条件下での高活性触媒作用(省エネ)、酵素反応系の無毒性(毒性の高い金属触媒やモノマーの非使用)、有効利用の望まれている天然資源の出発物質としての活用、生成ポリマーの高い生分解性といった点で、地球環境に優しい(環境低負荷型)高分子材料創製プロセスです。