ポリ乳酸を用いた機能性材料
●ポリ乳酸について
ポリ乳酸は、トウモロコシなどの再生可能な植物資源から作られ、生分解性と生体適合性を有しているため、環境適合材料および医用材料に用いられています。天然由来のL−ラクチドを開環重合することで得られるポリ(L−乳酸)(PLLA)や、その光学異性体であるD−ラクチドから得られるポリ(D−乳酸)(PDLA)は、溶液中で混合するとファンデルワールス相互作用によりステレオコンプレックスと呼ばれる複合体を形成し、単一のポリマーとは異なる特性を示します。
当研究室では、ポリ乳酸を用いた材料の物性を様々なアプローチから改良したり、ポリ乳酸からなるナノサイズの構造体の形態制御を行っています。
1. 加水分解の制御
PLLAおよびPDLAの各溶液へ交互に基板を漬け込む交互積層法を適用することで、基板上へのステレオコンプレックス薄膜の作製に成功しました。アルカリ条件下で加水分解挙動を比較すると、PLLAまたはPDLAの単独結晶よりもステレオコンプレックス結晶から成る薄膜の方が速やかに分解されることが分かりました。ステレオコンプレックスの方がきつく巻かれた状態にあるので、加水分解を受けやすい構造をとっていると考えられます。このように、ポリ乳酸の分解挙動を調べるとともに加水分解の制御にも成功しました。

References
(1) Yuuya Arikawa, Takeshi Serizawa, Takashi Mukose, Yoshiharu Kimura, Mitsuru Akashi, “Controlled
Degradation of Porous Poly(lactide) Stereocomplex Films Prepared by the
Selective Extraction of
Co-assembled Poly(vinyl alcohol)”, Polym. Bull., 58, 703-709 (2007).
(2) Takeshi Serizawa, Yuuya Arikawa, Ken-ichi Hamada, Hiroo Yamashita,
Tomoko Fuijwara, Yoshiharu
Kimura, Mitsuru Akashi, “Alkaline Hydrolysis of Enantiomeric Poly(lactide)s Stereocomplex Deposited on
Solid Substrates”, Macromolecules, 36, 1762-1765 (2003).
2. ナノ構造体の融合と形態制御

PLLA溶液とPDLA溶液に交互に漬け込むことで基板上にポリ乳酸ステレオコンプレックス薄膜を作製する手法を利用し、基盤の代わりにナノメートルサイズのシリカ粒子を用いると、シリカ粒子の上にポリ乳酸ステレオコンプレックス薄膜を形成させることができました。さらにフッ化水素酸で内部のシリカを溶出除去することで、ポリ乳酸中空ナノカプセルの作製に成功しました。ここで得られた中空ナノカプセルの水分散液を基板上で乾燥させることで、複数の中空ナノカプセルが一次元的に融合し中空ナノチューブが形成されることを見出しました。

さらに、ポリ乳酸ナノ粒子の水分散液をガラス転移点以上に加熱することによって、らせん状ファイバーへと形態が変化することも最近発見しました。その他、光反応性官能基を導入したナノ粒子の凝集挙動についても研究しています。ポリ乳酸構造体のナノレベルでの形態変化について基礎研究を進めるとともに、ナノ材料としての応用を試みています。
References
(3) Kenta Kondo, Toshiyuki Kida, Yuji Ogawa, Yuuya Arikawa, Mitsuru Akashi,
“Nanotube Formation through
the Continuous One-dimensional Fusion of Hollow Nanocapsules Composed
of Layer-by-layer Poly(lactic
acid)s Stereocomplex Films”, J. Am. Chem. Soc., 132, 8236-8237 (2010).
(4) Toshiyuki Kida, Kenta Kondo, Mitsuru Akashi, “Fabrication of Nanofibers through a Unique Morphological
Transformation of Poly(lactic acid) Particles in Water”, Chem. Commun.,
48, 2319-2321(2012).
(5) Tran Hang Thi, Michiya Matsusaki, Mitsuru Akashi, “Photoreactive Polylactide
Nanoparticles by the Terminal
Conjugation of Bio-based Caffeic Acid”, Langmuir, 25, 10567-10574 (2009).
3. 耐熱性の制御

高分子材料の耐熱性を向上させるのは重要な課題の一つです。通常、ポリ乳酸では熱による加水分解が加速されるために300度以上では分解されてしまいます。当研究室ではポリ乳酸自身の末端に存在する水酸基をカフェ酸誘導体で修飾することで分解を抑えようと試みています。これまでに100度程度も分解温度を向上させ耐熱性を付与させることに成功しています。
References
(6) Tran Hang Thi, Michiya Matsusaki, Hiroshi Hirano, Hiroaki Kawano, Yasuyuki
Agari, Mitsuru Akashi, “
Mechanism of High Thermal Stability of Commercial Polyesters and Polyethers
Conjugated with Bio-Based
Caffeic Acid” J. Polym. Sci. Polym. Chem., 49, 3152-3162 (2011).
(7) Tran Hang Thi, Michiya Matsusaki, Mitsuru Akashi, “Thermally Stable
and Photoreactive Polylactides by the
Terminal Conjugation of Bio-based Caffeic Acid”, Chem. Commun., 3918-3920 (2008).
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