<ワークショップレポート>

大阪湾プラごみの削減に向けた
社会経済スキームの設計・実証

海洋ブラスチックごみ問題に取り組む資源循環共創拠点として、
まずは身近な大阪湾のプラスチックごみをゼロに。

このコンセプトで始まった本拠点を具体的なものにしていくために、ワークショップが開催されました。
テーマは、「大阪湾プラごみの削減に向けた社会経済スキームの設計・実証」。企業・行政・消費者、さまざまな立場の方が参加し、それぞれの知見を交えながら議論しました。

プラごみ問題を自分ゴトに

プラごみ問題に取り組むかどうかで変わる2050年の未来

参加者がまず取り組んだのは、プラごみ問題の深刻さを実感することから。

パッと思いつくだけでも、ペットボトルに始まり、商品パッケージや容器、ポリ袋、繊維素材など、今の私たちはプラスチックのない生活はもう考えられないものになっています。

では、このままのペースで使い続け、何気なく捨てていくと2050年にはどうなるのか。結論から言えば、海岸線はプラごみであふれ、魚よりもプラごみの方が多くなる…という未来が待っていると予測されています。

世界で年間900万トン以上のプラスチックが海に流出しているというこの問題は、
1年、1ヵ月、1日でも早くから取り組むべき問題なのです。

予期せぬところから今のあなたの生活にも影響を及ぼしてくる

仮に現状から変化なく時が経ってしまうと、海が汚れてしまうというだけでは済まなくなります。日常生活では海と関わりのない人たちにとっても、無関係ではなくなるのです。

例えば、海がプラごみであふれて魚が取れなくなると、食卓に影響が出る。それだけでなく、飲食店に並ぶ魚介類の品質も落ちる。海鮮を目当てに外食をすることも、旅行することも、観光客が来ることもなくなっていく。その結果、最終的には国や地域の産業にまで悪影響を及ぼす…という身近な問題にもなってくるのです。

このように海洋プラごみ問題から連鎖していくことを想像して、どれだけ自分の身近な問題として捉えられるかが、このワークショップの入り口です。
あなたも一度、自分の生活と連動して想像してみてください。

プラごみ回収はボランティア頼み、リサイクル率も上がらない状況

また、この問題への取り組みは現状、ボランティア頼みが中心です。ごみの処理にかかる費用も各自治体が負担しており、一部に補助金が出ているとはいえ、そのほとんどが善意によって成り立っています。

リサイクルについても、ペットボトルのみが世界最高水準でできている程度。他のプラスチック製品は、強度や用途の違いでいろんな成分が含まれているため、製品ごとの分別が必要になることもあり、そのほとんどがリサイクルできていません。

シンプルに解決できる問題ではないからこそ、社会のシステムとして資源循環型にしていくことが求められるのです。

プラごみ問題が解決された社会を考える

未来を起点にする「バックキャスト思考」でワクワクする社会を想像

では問題の解決に向けて、いきなりその手法を議論する…のではなく、ワークショップでは「未来のありたい姿=理想の社会像」から考える、「バックキャスト思考」で問題と向き合います。

その練習としてまず、「2050年の傘を考えてみましょう!」という例題が出されました。2050年には実現していそうな傘を考え、そこから必要な技術や課題を導き出していこうというものです。あなたならどんな傘を想像しますか?

参加者からは、持たなくてもいいドローン傘、サブスクリプションで使える傘、スマホとしても使える傘、移動にも使える傘…など、自由な発想が飛び交い、そこから議論が深まっていくことを体感。

そしていよいよ、本題の「海ごみゼロを実現した、ワクワクする理想の大阪の街とは?」を考えていきます。今の大阪湾を考える必要はなく、未来の理想像でかまいません。

ウミガメの産卵が見られる街、「水の都」と呼ばれるほど海がきれいな街、道頓堀でも泳げるほど水質の良い街…など、各グループからワクワクする大阪の未来の姿が出てきました。

あらゆる立場から、それぞれの視点で実現に向けたアイデアを出す

参加者が考えた未来の姿に向けて、ここからは行政・企業・消費者それぞれの立場から意見を交わしていきます。

消費者目線でいうと「海へプラごみを流出させないために、リサイクルを強化しよう」という意見も、メーカー目線では「リサイクルしやすい素材にすると、品質が落ちて商品の売上も落ちるので変えづらい」、行政目線では「プラごみ問題だけに取り掛かれるほど、人員に余裕がない」など、それぞれの立場で理解できる意見が出てきます。そうなると、リサイクルではない形でプラごみを減らすアイデアが必要となりました。

ここで大切なのが、「バックキャスト思考」です。「海ごみゼロの実現に必要なのは、ちゃんとごみが処理される社会」というのを起点に考えると、「ごみ自体に価値をつけよう」や「ごみ箱から近づいてくるようにしよう」など、未来的なアイデアがいくつも出てきました。

論理で出たさまざまなアイデアを、ブロックで可視化していく

アイデアが集まってきたら、次は参加者の頭の中を可視化するワークショップに取り組みます。言葉で思い描いてきた理想の姿を、「心」で考え直し、ブロックや粘土で表現することで、イメージをより具体化していきます。

集まったアイデアを地図の中で形にすることで、「大阪湾の海岸全体に白い砂浜ができるほど、きれいにしたい」や「ごみ自体に価値をつけるため、ごみを集めればお笑いが観に行ける仕組みを作りたい」というように、具体性を伴ったものに変化。アイデアを可視化することで、理想の姿がよりイメージしやすい形となります。

プロジェクトリーダーである宇山教授からも「専門家では出てこない発想があった」というように、「バックキャスト思考」で考えると議論に大きな広がりが出ることを感じました。

ありたい社会に向けた本拠点のビジョンを策定

「誰が」、「何を」、「どのように」解決するかを具体的に考える

ここまで議論を交わしてきた「理想とする大阪の姿」を実現するために、次は「どんな社会像なら実現できるか」を考えます。
例えば、「道頓堀で泳げるほど水質の良い街にする」という大阪の姿は、「プラスチックがごみではなく地上資源として循環する社会像なら実現できる」という考え方です。この「ありたい社会像」を設定することで、やるべきことを具体的にあぶり出していくのです。

あるグループが設定したのは、「海ごみ・プラごみが価値を生んでいる社会」。この社会の実現に向けて、取り組むべきことは何でしょうか。
考える思考の流れとして、ワークショップの中では、「誰が」、「何を」、「どのように」をキーワードにしました。

すると、「学生が、プラごみ問題を自分ゴトにできるよう、学校授業に組み込む」や「メーカーが、新規の予算を組み、新たに技術開発していく」、「自治体が、住民の理解を得られるよう、リサイクルの仕組みづくりをする」など、いろんな視点で取り組むべき案が出てきました。

アウトプットした内容を基に、それを包括するビジョンを策定

アウトプットした取り組むべきこと参考に、今回のワークショップのテーマである「大阪湾プラごみゼロを目指す資源循環共創拠点」のビジョンを最後に策定。
この活動によって実現したいあるべき社会の姿を、参加者にひと言で表してもらいました。

ビジョンを表すフレーズ案
  • プラスチックごみが歴史になった社会
  • エコと便利が共存する未来のプラスチック社会
  • 地域の全てのステークホルダーが自主的、持続的に資源循環する社会

ワークショップを終えて

海に行く機会のない方にとっては、無関係と思っていたプラごみ問題。でも、そこから派生していくこと、特に食にまつわることは、どんな人でも影響を受ける深刻な問題だと強く感じました。

また、参加者から出た大阪湾の理想の姿は、最初はイメージの湧かないものでしたが、視点を変えたり可視化したりすることで分かりやすくなるのが発見でした。何か大きな行動をしなくても「問題を正しく理解する」だけでも意味があることなので、日常でも気にするキッカケができたと思います。

「大阪湾プラごみゼロを目指す資源循環共創拠点」
プロジェクトメンバーの想い

プロジェクトリーダー:大阪大学 工学研究科 教授 宇山 浩
プロジェクトリーダー
大阪大学 工学研究科 教授
宇山 浩

健康被害が分かりやすい公害とは違い、プラスチックごみは足元に落ちていても「それが問題だ」と感じる人は少ないと思います。ただ、それが海に流れ込み、魚をはじめとするもっと小さい生物が飲み込んだとしたら、生態系が乱れる原因になるものです。

原因となるものを減らすためであれば、与える影響はわずかかもしれませんが、買い物で使うポリ袋やホテルに置かれている歯ブラシなどは控えるべきだと、私は思っています。

そんな想いを持つ中で立ち上げた本拠点は、プラごみが「どこから流れてきたのか」を調べるのに絶好の場所である大阪湾を拠点としました。太平洋に直接面していない閉鎖的な大阪湾に流れ着くごみは、大半が河川からのため、国内でのプラごみの海洋流出量を調べるのに適しているからです。

なかなか認知してもらいにくいプラごみ問題を自分ゴト化してもらうことと、一般に広がったプラスチックへの誤った認識を正す意味で、本拠点での活動を活かせたらと考えています。

研究開発課題リーダー:大阪公立大学 現代システム科学研究科 准教授 千葉 知世
研究開発課題リーダー
大阪公立大学 現代システム科学研究科 准教授
千葉 知世

私が海のごみや汚染の問題に関心を持ったのは、幼いころにテレビで見た大規模な原油流出事故がきっかけだったと思います。海の動物が油まみれになるのを見て衝撃を受けて以来、常に関心を持ってきました。まずは現場を知らねばという想いがあり、現在は、和歌山県にある友ヶ島を拠点に大阪湾の各地で、調査や意識啓発の活動をしています。

海ごみの問題は生態系や環境への影響が懸念されているのはよく知られていますが、海の近くに住む方にとっては、原風景である海の景色がごみによって汚されることによる心理的問題でもあるなど、多面的な性格を持っています。それに対し、行政・企業・個人、国・地域のそれぞれで対策されているものの、全体での連携は取れておらず、その効果を最大限発揮できていないというのが現状だと思います。

この問題を良くしていくためには、ごみに関わるあらゆる主体を巻き込まねばなりませんが、それは簡単なことではなく、歯がゆい想いがあった中で、プラスチックの専門家である宇山先生から、産官学民が手を取り問題解決に取り組むこのプロジェクトにお声がけいただき、すばらしい機会と思い参画しました。問題を引き起こしている社会の仕組みを少しずつ変えていくお手伝いができればと思います。