応用化学専攻・物質機能化学コース
 PRESS  HISTORY



こんなテーマをやっています。
(2010年度)
 イオン液体を用いたナノ粒子の合成 と利用法の開発
 イオン液体を用いた新規な電子顕微鏡技術の開発 
 イオン液体+量子ビームによるパターン形成法の開発
 イオン液体を用いた合金めっき技術の開発
 新しいタイプのイオン液体の合成
 新規の半導体超微粒子(量子ドット)蛍光試薬の合成
 半導体超微粒子蛍光試薬の光学的利用法の開発



   イオン液体とは何?

イオン液体とは、有機化合物の塩です。有機化合物の塩と言えば、酢酸ナトリウムとか、安息香酸ナトリウムなど、通常は固体の粉末です。でも、イオン液体と呼ばれる塩は、融点が非常に低く、室温よりも低いものがあります。そうです! イオン液体は、室温で液体の塩なのです。

電気化学でお馴染の電解液は、溶媒に塩を溶かしたもの、つまりイオンがいっぱい溶けている溶液です。でも、イオン液体はそれ自身がいっぱいイオンを持ってます。いや、もう少し正確に言うと、溶媒は全く無く、イオンだけが存在する液体です。ですから、電気化学反応の電解液として使うことが可能。

しかも、イオン液体は、蒸気圧がほとんどゼロ! つまり蒸発しない液体なのです。電解液として用いることができて、かつ、真空でも蒸発しないという特性を使うと、色々な面白いことができます。応用電気化学領域では、「世界初!」の色々な技術を開発中です。

  そして、イオン液体を色々な真空装置に入れた実験を行って、2007年10月にCREST課題に採択されました。
イオン液体と真空技術を組み合わせたナノ材料の創製と観察法の開発
http://www.nmt.jst.go.jp/themes/h19/themes.html



それでは、イオン液体を用いた具体的なテーマと成果をいくつか紹介しましょう。


 イオン液体を用いたナノ粒子の合成
イオン液体に金属のスパッタリングを行うと、イオン液体内に金属や金属酸化物のナノ粒子が合成されます。スパッタリングは乾式の物理的ナノ材料調製法であり、それに湿式プロセスを導入するという、全く新しい合成システムとなります。

Torimoto, T.; Okazaki, K.; Kiyama, T.; Hirahara, K.; Tanaka, N..; Kuwabata, S., Appl. Phys. Lett., 89(24), 243117/1-243117/3 (2006).
Okazaki, K.; Kiyama, .; Hirahara, K.; Tanaka, N.; Kuwabata, S.; Torimoto, T., Chem. Commun., (6), 637-784 (2008).
Suzuki, T.; Okazaki, K.; Kiyama, T.; Kuwabata, S.; Torimoto, T., Electrochemistry 77 (8), pp. 636-638 (2009).
Suzuki, T.; Okazaki, K.-I.; Suzuki, S.; Shibayama, T.; Kuwabata, S.; Torimoto, T., Chem. Mater. 22 (18), 5209-5215 (2010).


白金ナノ粒子の電極触媒の作製
上記の方法で合成した金属ナノ粒子を、炭素材料表面に簡単に、多量に吸着させる方法を開発しました。 例えば、下の電子顕微鏡画像は、白金ナノ粒子を吸着させたカーボンナノチューブ(CNT)です。調製したPt/CNTを用いて電極を作製すると、酸素還元反応に高い触媒活性を示し、燃料電池用電極触媒として機能することが確認されました。
 
Tsuda, T.; Kurihara, T.; Hoshino, Y.; Kiyama, T.; Okazaki, K.-I.; Torimoto, T.; Kuwabata, S., Electrochemistry, 77 (8), 693-695 (2009).
Okazaki, K.-I.; Kiyama, T.; Suzuki, T.; Kuwabata, S.; Torimoto, T., Chem. Lett., 38 (4), 330-331
Tsuda, T.; Yoshii, K.; Torimoto, T.; Kuwabata, S., J. Power Sources, 195 (18), 5980-5985 (2010)


イオン液体の電子顕微鏡観察
イオン液体を走査型電子顕微鏡で観察すると、イオン液体がチャージアップすることなく観察できます(下左SEM像)。すなわち、イオン液体は電子電導性物質のように振舞うのです。この性質を利用すると、絶縁体サンプル(例えば星の砂)にイオン液体を浸み込ませる、塗布することで、サンプルを帯電させることなく観察することが可能となります(下中SEM像)。さらに、乾燥状態と濡れた状態で形状の全く異なるサンプル(例えばワカメ)の場合、濡れた状態のものを電子顕微鏡で観察できます(下右SEM像)。
 

Kuwabata, S.; Kongkanand, A.; Oyamatsu, D.; Torimoto, T., Chem. Lett. 35 (6), 600-601 (2006).
Arimoto, S.; Sugimura, M.; Kageyama, H.; Torimoto, T.; Kuwabata, S., Electrochim. Acta 53 (21), 6228-6234 (2008).


化学反応の電子顕微鏡観察
イオン液体は、化学反応の溶媒や、電気化学反応の電解液として使うことができます。よって、電子顕微鏡の中に入れたイオン液体中で反応を行うと、その様子を電子顕微鏡で観察できることになります。たとえば、SEMの試料台に電気化学セルを乗せて、その中で電気化学反応が行えるように装置を改良します(下左図)。そして、銀イオンを溶かしたイオン液体をセルの中にいれ、電極で還元を行って銀の析出を行いながら、その様子をSEMで観察しますと、下右SEM像のように銀の成長を連続的に観察することができます。
   

Arimoto, S.; Oyamatsu, D.; Torimoto, T.; Kuwabata, S., ChemPhysChem, 9 (5), 763-767 (2008).
Arimoto, S.; Kageyama, H.; Torimoto, T.; Kuwabata, S., Electrochem. Commun., 10 (12), 1901-1904 (2008).

 生体試料の電子顕微鏡観察
生体試料は、複雑な構造をしている。また、乾燥してしまうと形が変形するものが多くありますまた、。絶縁性の生体試料をSEMで観察するためには、金の蒸着等の処理をしなければならないが、これらの処理によっても生体試料にダメージを与えることがあります。生体試料にイオン液体を塗布して電導性を付与する方法は、上記のわかめの時のように、試料を濡れた状態に保つことができ、生体試料の電子顕微鏡観察に適しています。この方法を巧く工夫して、生体の真の姿を観察できる技術を、「医学生物学電子顕微鏡技術学会」の皆さんと協力して開発しています。
 

桑畑; 鳥本; 中澤, 顕微鏡, 44 (1), 61-64
Ishigaki, Y; Nakamura, Y; Takehara, T.; Nemoto, N.; Kurihara, T.; Koga, H.; Nakagawa, H.; Takegami, T.; Tomosugi, N.; Miyazawa, S.; Kuwabata, S., Microscop. Res. Tech., web published: DOI 10.1002/jemt.20924

 量子ビーム照射による3次元パターンの形成
金属イオンやモノマーにイオンビーム、電子ビーム等の量子ビームを照射すると、金属析出や重合反応が起こることが知られています。これらのビームは強力なものは大気中でも発生できますが、微細な加工用の機器では真空中で試料にビーム照射します。集束イオンビーム(FIB)装置や電子ビーム(EB)装置は代表的な加工用装置で、通常は高分子膜に照射して、真空中で架橋や分解を行い、現像することでパターンを作ります。しかし、金属イオンやモノマーを溶解したイオン液体は、基板上にそ塗布してそれらの装置に入れることができます。そこで、それにFIBやEB装置でパターン照射すると、3次元のパターンを作製できることを、見出しました。この研究は、分子創成化学コースの関教授との共同研究であります。
   
         


イオン液体を用いた研究の解説は、こちらにもあります。
 
(株)キーエンス・High Throughput



半導体ナノ微粒子(量子ドット)蛍光試薬とは何?

蛍光試薬は、DNAシーケンス、DNAチップ、FISH, バイオイメージングなど、その応用範囲は既に広く、これからもさらに広がるいっぽうです。半導体ナノ粒子(量子ドット)の中には、強い蛍光を発するものがあり、それらを蛍光試薬として使おうという流れがあります。有機の蛍光試薬の場合、望む色の蛍光を発するものが欲しければ、その蛍光を発する有機分子を合成する必要がありますが、半導体ナノ粒子の場合は、同じ種類のナノ粒子の粒径を変化させる、あるいは組成を変化させるだけで色々な蛍光色が得られます。

そこで、当研究室では望む色の蛍光を発する半導体ナノ粒子を合成する、新しい手法を開発しています。
また、これまでに合成された、強い蛍光を発する半導体ナノ粒子としては、CdSe, CdTeなどがありますが、いずれもCdのような毒性の高い元素が含まれております。当研究室では、Cdの含まれておらず、強い蛍光を発する半導体ナノ粒子の合成を目指し、すでにいくつかの種類の蛍光性半導体ナノ粒子の合成に成功しています。


 光サイズ選択エッチング法で作製した
蛍光性 CdSナノ粒子
 
 光サイズ選択エッチング法で作製した
蛍光性 CdTeナノ粒子
 
毒性の元素を含まない
 蛍光性 ZnS-AgInS2 ナノ粒子
毒性の元素を含まない
 蛍光性 AgGaS2-AgInS2 ナノ粒子 

Kuwabata, S.; Ueda-Sarson, K.o; Torimoto, T., Chem. Lett., 33 (10), 1344-1345 (2004).
Sato, K.; Kojima, S.; Hattori, S.; Chiba, T.; Ueda-Sarson1, K.; Torimoto, T.; Tachibana, Y.; Kuwabata, S., Nanotechnology, 18 (46), 465702 (2007).
Torimoto, T.; Adachi, T.; Okazaki, K.; Sakuraoka, M.; Shibayama, T.; Ohtani, B.; Kudo,.; Kuwabata, S., J. Am. Chem. Soc., 129 (41), 12388-12389 (2007).
Uematsu, T.; Kitajima, H.; Kohma, T.; Torimoto, T.; Tachibana, Y.; Kuwabata, S., Nanotechnology, 20 (21), 215302 (2009)
Torimoto, T.; Ogawa, S.; Adachi,T.; Kameyama, T.; Okazaki, K.; Shibayama, T.; Kudo, A.; Kuwabata, S., Chem. Commun., 46 (12), 2082-2084 (2010).


半導体ナノ微粒子蛍光試を使ったバイオセンシング
有機分子の蛍光試薬と同様、半導体ナノ粒子の蛍光試薬も溶液中にレドックス試薬を入れると蛍光のクエンチが起きます。しかし、半導体ナノ粒子の場合、ある種のレドックス試薬を使うと、その酸化体が存在するとクエンチするのに還元体が存在するとほとんどクエンチしないという面白い現象を見つけました。その挙動を詳しく調べるとともに、それを用いたバイオセンシングシステムを開発しますた。半導体ナノ粒子、レドックス試薬の酸化体に加えて、グルコース脱水素酵素を水溶液に溶かしました。この状態では、蛍光クエンチが起こり、溶液は蛍光を全く発しません。ここにグルコースを加えると、酵素によるグルコース酸化が起こると同時に、レドックス種の還元反応が起こります。そうすると、レドックス種のクエンチ能力が低下し、溶液は蛍光を発するようになります。この溶液の蛍光強度を計測すれば、グルコースの濃度を求められることを見出し、新しいバイオセンシングシステムになることを明らかとしました。

 


Uematsu, T.; Waki, T.; Torimoto, T.; Kuwabata, S., J. Phys. Chem. C, 113 (52), 21621-21628 (2009).
Uematsu, T.; Torimoto, T.; Kuwabata, S., Chem. Commun., (48), 7485-7487 (2009).