最近の研究の概略(近畿化学協会有機金属部会 OMNews, 2000, No.3より)

 有機金属活性種の開発とその機能解明を基とした、選択的有機合成手法の確立が当研究室の課題である。最近の研究は、有機スズヒドリドの設計と官能基選択的還元の自由制御 (ref.1-7)、金属エノラートの新規反応性の開発(ref. 8-11)、インジウム特異的な合成手法創製 (ref.12-15)、有機スズを原資とする金属交換反応による活性種の発生と反応 (ref.16-19)の4分野である。以下に、の代表例を示すが、いずれも活性種の構造をスペクトル的に明らかにし、機能発現の原因を解明するように努めている。


 アート型スズヒドリド
 これまでの還元剤と異なり、図に示したアートスズヒドリドは、まずアピカル位をしめるヨウ素が求核攻撃し、次に水素がこのヨウ素に置き換わる機構で基質の還元を行う。つまり、この還元剤ではヒドリドではなくヨウ素の性質により反応性や反応位置が決定されるされることになり、新しい反応性が期待される。

 従来は困難であった、アルデヒドに優先したエノンの1,4-還元やオキシラン環の選択的還元等が可能になり、官能基選択的なドミノ型反応によるヘテロ環合成、アルドール合成などに展開している。


 高配位化によるエノラートの 反応性変換
 スズエノラートを適当な配位子で高配位化すると、その反応性が大きく転換する。本来のカルボニル基への付加反応性は大きく低下する代わりにハライドとの置換反応性が向上することを見出し、その原因を実験化学的および軌道計算により検証した。スペクトル的な証拠もあわせて検討した結果、配位を受けたエノール型スズにおいて、スズ中心のルイス酸性が低下し、エノール末端のビニル炭素の電子密度が大きく向上しているこのが明らかになった。
また、この高配位化法を用いることにより、熱力学的に進行が困難であるケトン由来エノラートの不飽和エステルに対するMichael付加反応が、触媒的に達成できることを初めて明らかにした。

3  In-Siによる還元的官能基化反応
インジウム触媒を水素化ケイ素と組み合わせると、カルボニル化合物などから形式的カチオンを発生させることができ、還元的フリ−デルクラフト反応、脱酸素反応、還元的アリル化などに展開している。


いずれも、同族のAlCl
3やBCl3では達成できず、インジウムに特異的な触媒反応である。インジウムとケイ素の相互作用により高いルイス酸性が発現されることと、インジウムの親酸素性がアルミやホウ素に比べて低いことが、これらの触媒反応を可能にしていると推定している。
 他に、スズとの金属交換による2価スズ、インジウム、およびタンタル活性種などの発生と反応についても検討している。

References
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