グリーンケミストリーを指向した有機合成手法の開発

 資源の乏しい我が国にあって基盤を支える化学工業にかかる期待は従来にも倍して大きいものを感じる。医薬品や化学製品の製造では、欲しいものだけを、しかも安全に環境への負荷を考慮したうえで100%収率で合成することが理想である。金属試薬はそのための道具として用いられ、近年、精密な合成の制御が達成されてきている。しかしながら、現在においても有機反応における選択性が思い通りに制御できているとはいえない。したがって新しい反応剤、触媒を開発し、思いどおりの有機反応選択性を達成する手段を開発することが、100%の収率および選択性を可能とし、クリエイティブな環境化学的有機合成方法論を展開するための基本であると考えている。また、近年、有機反応においての効率化が注目されている。立体選択性などを精密に制御して目的物を得る手堅い方法には、現在でも段階を経る方法が多用されている。下図に示すように出発物質Aと反応剤から反応性の高い中間体へと変換させた後、副生物を取り除いて、Bと反応させ、目的生成物を得るといった方法である。これらの既存の方法の問題点は(1)中間体を単離する操作が必要、(2)それぞれの段階で溶媒を交換する必要、(3)それぞれの段階で温度を上げ下げする必要、これらはすべてエネルギーの浪費につながる。これに対して全てを混ぜただけで目的生成物を精密に合成できればエネルギー消費を最小限に抑えることができるが、このような多段階ワンポット合成は実は難しい。なぜなら、Aのみと反応してBとは反応しない都合の良い反応剤はなかなか存在しないからである。多段階ワンポット合成を達成するための鍵は本来反応しやすい官能基とは反応せずに系中に存在する異なる官能基とのみ反応するなど“官能基に対する反応順を制御選択する能力”をもつ新しい反応剤や触媒を開発することである。環境に配慮した有機合成手法の確立を研究の中心課題に置きたいと考えている

有機金属試薬を基盤とし、大量合成を視野に入れた新規合成法の確立
@最も重要な研究課題は高い選択性を持ち“使える”反応剤、触媒を開発することである。既存の試薬、触媒もしくはそれらを組み合わせるだけでは現状以上の目的を達成できない場合が多い。特に今までに達成できていない選択性(官能基選択性、位置選択性、立体選択性)をもつ新規な試薬、触媒を開発することが必要である。
A環境への負荷のきわめて低い合成反応を達成するための官能基選択的な反応剤、触媒を開発することである。
現在、安定で水中でも使用可能なインジウム化合物を用い、その合成的利用法ついて検討中であるが、今後、種々の多段階ワンポット合成法を可能とする新たな触媒の開発を目的としている。
B有機合成の効率化の一環として固体触媒、イオン液体系などの反応媒体を用いて、目的有機化合物のみを簡単に分離、分析するための手法を目指したい。これにより数日から数週間かかっていた分離操作が数秒、数分で可能となる。さらに連続運転も可能となり、工業化へと展開できる