研究トピックス

お椀分子バッキーボウルで 3次元空間を創出

スマネンなど、フラーレン類の部分構造またはカーボンナノチューブのキャップ構造に相当するバッキーボウルと呼ばれるお椀構造の化合物は、平面構造を持つベンゼンやナフタレンとは異なり、湾曲したπ電子系※1に由来する種々のユニークな性質を示すことが知られています。こうしたユニークな構造・機能に着目して、これまでも機能性分子集合体の構築の構成成分として用いられてきました。しかし、これらはお椀構造同士で重なり合う力が強いために、2次元レイヤー構造を作りやすいという性質があり、バッキーボウルによる3次元空間を明確に構築した例はこれまでありませんでした。(図1)。

図1 バッキーボウルの1つであるスマネンの構造とその性質。

今回、応用化学専攻の燒山佑美准教授、大学院生の長谷川卓己氏(博士前期課程)、櫻井英博教授らの研究グループは、お椀分子「スマネン」を主骨格に利用することで、曲がった電子系に囲まれた3次元的な空間を持つ金属有機構造体(MOF)※2の開発に成功しました。

当研究グループは、高い対称性を有する分子HexPの柔軟性に着目し、金属イオンとの配位結合を組み合わせることにより、3次元的にスマネン骨格を組み上げることが出来ると考えました。その結果、Zn2+(亜鉛イオン)とCd2+(カドミウムイオン)といった結合角の異なる2種類の金属イオンを使い分けることで、美しいベルト状や球状の3次元的空間を有するMOFを初めて得ることに成功したのです(図2)。

図2 6置換スマネンHexPと2種類の金属イオンZn、Cdがつくるベルト状および球状の空間。

れらの空間は曲がったπ電子系で囲まれていることから、空間内に取り込んだ分子の性質に対しどのような影響を与えるかに興味が持たれます。また、今回得られたMOFは分子を空間内に閉じ込め、かつ規則正しく並べるのに適した構造体となっており、これを利用した機能の発現が期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Journal of the American Chemical Society」に、10月13日(日)(日本時間)に公開されました。

※1 π電子系
π結合を作っている電子が分子内で広く共役することによって形成されるπ軌道を有する分子系・構造のこと。分子が持つ色や電気伝導、発光特性に大きく関係している。

※2 金属有機構造体(MOF)
有機物配位子と金属イオンとの配位結合によって構築される多孔性の配位ネットワーク高分子。配位子部分と金属イオンの組み合わせに応じて精密に構造・機能をデザインできる上、ガス吸着、特定分子の分離、センサーや不均一系触媒としての利用など、数多くの応用が期待されることから、世界中で精力的な研究が行われている。

本研究の詳細はこちら
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2019/20191029_1

研究グループ
http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~sakurai-lab/

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