インタビュー

博士論文発表会レポート(後編)楽しい時間はあっという間?

応用化学専攻 有機金属化学領域 生越研究室 D3
河島 拓矢さん
木下 拓也さん
白瀧 浩志さん

前編記事では、生越研の博士課程学生3名(D3)の、「化学の道を志したきっかけ」「博士課程に進んだ理由」「学部/修士課程と博士課程の違い」などについてご紹介いたしました。
いよいよ今回は、「博士論文発表会」本番についてご紹介してまいります。

前編記事はこちら

2018/12/21 【インタビュー】

博士論文発表会レポート(前編)?博士課程の学生とは?

博士論文のテーマは?

白瀧■
「酸化的環化反応を鍵段階とするニッケル(0)触媒を用いたテトラフルオロエチレンの多成分連結反応に関する研究」というテーマです。
我々が所属する生越研究室ではテトラフルオロエチレン(以下、TFE)という化合物の変換反応に着目して研究を行っています。
TFEはフライパンのコーティング剤(テフロンなど)の原料として工業的に使われていて、環境に優しくて安価なため面白い化合物です。ただ、取り扱いが難しいため十分に活用しきれていない問題がありました。
そこで私は原料として、このTFE(A)とその他の2つの試薬(BとC)を用いた3種類の原料を一度に混ぜることで、廃棄物を出すことなくABCという化合物を合成する手法の開発に取り組みました。このような反応の難しい点はABBやCCなど、目的化合物以外にもいろいろな副生成物が生じてしまうことです。しかし、触媒・反応条件・使用する試薬を精査することで上手く反応を制御し、選択的に単一の化合物ABCを合成できることを見出しました。
またこの反応の面白い点として、TFE(A)と異なる2つの試薬(CとD)を使った場合はACD、TFE(A)と異なる2つの試薬(EとD)を使った場合はAED、といったように様々な3つの基質を組み合わせにて選択的に反応が進行する事です。
将来的には、合成した化合物が医薬品や樹脂材料に利用できないかと期待しています。

河島■
テーマは「ニッケル上でのテトラフルオロエチレンとエチレンとの酸化的環化を経る交差多量化反応に関する研究」。
私も白瀧くんと同じようなテーマなのですが・・。
簡単に説明させていただくと、4つの原料A、B、C、Dをニッケル触媒を用いて反応させると、組み合わせ的に色々な生成物が考えられるはずですが、ABCDという化合物だけを高選択的に合成する研究です。数学的には多くの可能性がある中で、きれいに一つの生成物に落とし込むという、一つの生成物の選択性の高さが、私の研究の「売り」の部分です。最高で、ほぼ100%の選択性を達成しています。
白瀧さんは原料をどの順番で反応させるか、私は原料の種類(生成物のパーツの種類)をいかに増やすというイメージでしょうか。

木下■
私の研究テーマは「窒素上にホスフィンオキシドを導入したN-ヘテロ環状カルベンの合成と応用」。
分子の構造や性質を考えて化合物を精密に設計することで、高活性な触媒としての機能などを新しく分子に付与してやるような、そんな研究です。その応用のひとつとして、反応性が高く取扱いが難しい触媒化学種を、いかに自在に発生させて簡便に取扱えるようにするか、ということに取り組みました。
具体的にはなかなか説明が難しいのですが、Aが電子を与える性質で、Bが電子を受け取る性質なら、AとBが一回くっついてしまうと、基本的には離れない。一回くっつけて安定に取り扱えるようにしたものを、望んだタイミングで自在に引き剥がすことで、AとBの共同作用を利用した高活性な触媒に変換する、という手法を開発しました。
外部刺激に応答して構造が変わる部位を分子に導入することがポイントで、外部刺激を引き金にして化合物を引き剥がして触媒を発生させ、これを利用した新しい分子変換を目指して研究してきました。

博士論文発表会の感想は??

木下■
準備は非常に大変で、今までの人生で最高に重圧のかかったイベントでしたね。しかし、正直に申し上げると、本番の1時間はとても楽しい時間でした(笑)。発表をしているときはもちろん緊張しているのですが、質疑応答では研究のアドバイスもいただけるので、思ったより楽しめました。
よく考えたら、自分のやってきた研究を、こうやって応用化学専攻の先生方に聞いていただける機会はなかなかありませんから。いろいろな分野のプロフェッショナルである先生方が自分の研究に興味を持って、どんどん質問を出していただけて、それにお答えするのも楽しかったです。

河島■
正直、私も発表前は「ああ・・イヤだな」という気持ちが強かったです。なので、今は「ホッとしている」というのが、一番正直な気持ちですね。
しかし実際に発表会の場に出てみると実は私も非常に楽しくて、質疑応答の30分が非常に短く感じました。それだけ、先生方とのディスカッションに熱中できていたのだと思います。そして先生方からは、自分が全く考えていなかった視点からのアドバイスをいくつかいただきましたので、非常に勉強になりました。正直、研究室に配属された学部4年から6年間を費やした研究を、たった30分の質疑応答で全部お伝えするのはなかなか難しくて、充分に話せてはいない感じです。本当にすごく楽しくて、あっという間に時間が過ぎてしまった気がしています。

白瀧■
発表前は本当に緊張しましたね。普段の心拍数は60?70ぐらいなんですけど、今日の発表前に測ったら、110もありましたよ(笑)。
実際の発表や質疑応答については、とても楽しかっとことに加えて、6年間で成長できた実感がありました。質疑応答が30分間あるのですが、その中で全く想像がつかなかった質問もあるにはあるのですが、自分で想定していた質問が多かったですね。質問を予測して準備できたということに、自身の成長を感じることができました。

今後の進路について

河島■
博士課程修了後は、三菱ケミカルに就職します。かなり事業領域が広い会社です。大学に残らずに民間企業への就職を決めた理由は、6年間も大学の研究室にいたので、そろそろ大学の外も見たいという気持ちが強かったからです。
就職先で、自分の専門性をいかすことができればそれはそれでいいと思いますが、視野を狭めたくないので、自分の経験のない幅広い分野にもどんどん挑戦していきたいと思っています。

木下■
積水化学工業に就職します。分野としては、基礎研究というより新素材や機能性材料の開発です。私はもともと生活につながってくるような製品をつくりたいという気持ちが強かったので、迷いなく民間企業への就職を選びました。
ドクターで学んだ、研究の進め方や課題の見つけ方をいかして、新しい事業を立ち上げたり、生活に関わる分野で新素材をつくっていきたい。そして、多様な分野の研究者とのつながりを大事にしたいですね。

白瀧■
パナソニックに就職します。大学院では基礎研究をやってきたので、社会に出て応用研究をやってみたいなという気持ちで民間企業へ就職することにしました。
化学と少し離れた事業領域になりますが、課題設定能力を最大限いかしながら、化学の知識を情報分野と組み合わせることで、新しいものづくり、サービスづくりをやっていきたいと考えています。

インタビュー後、ホッとした表情の3人

インタビュー後は研究室に戻って、いよいよ生越研恒例「Happy Hour」の始まりです。Happy Hourとは博士論文発表会を終えたD3学生が、教員や後輩の学生に感謝の気持ちを表す飲み会のこと。食べ物の費用はすべてD3学生が自主的に負担しているとか。

テキパキと準備していきます
フタが閉じないくらいもりもり

まずは生越教授の「3人とも期待通りの素晴らしい発表だった!お疲れさーん!!」の発声のもと、全員で乾杯。D3学生も笑顔が弾けます。

かんぱーい!
ミニゲームも大盛り上がり

学生、教員全員でD3学生の健闘を讃える楽しい宴は、2時間以上もグイグイ続いたそうです。
D3の皆さん、本当にお疲れさまでした!

D3のみなさん、お疲れ様でした!

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